2013年 09月 18日
1972年3月、私は大阪に本社のあるマネジメント系コンサルタント・ファームT社が事業部としてやっていた、人材紹介部署の紹介で、新興のインテリアファブリックス企画問屋Y社の社長と面談した。 私に同行したのは、T社の部長コンサルタントで、Y社の担当コンサルタントでもあった。以前T社で「転職希望登録票」で申し込みをしたおり面識のあった人だった。 その日はT社の本社に10時に出向き、同行してくれることになっていたコンサルタントから、Y社の現状と社長の将来構想や、創業者社長の人となりなどを聞かせてくれた。年商は150億円といっていた。そして「社長が貴方に関心を寄せたのは、先進と思われている自動車ディーラーにおける販売管理のやり方。これから流通業も問われるであろう事務処理(特に受発注)の効率化、システム化のようだ。問屋の役割がかわるから」といった。 私たちが通されたのは、社長室の隣の白板のある、小部屋だった。 同行のコンサルタントが私を引き合わせ、私は毅然と挨拶し、今井◯◯著の「転職のすすめ」通りに今日対応しようと、おくびにも「雇い乞い」はすまいと心に決めた。 Y社長の開口一番は「登録票による希望年収は、なぜ今の年収の1.5倍なのかね?」だった。 私は即答した「今より、所属する会社にも、社会にも、倍役立てる人間になり、私自身も豊かになるための投資にまわしたいからです」といった。 すると「理屈は立派だが、君にそれだけの値打ちがあるのかね」といい、棚にあった5つ玉の算盤をはじいて見せてた。コンサルタントがいったように、河内生まれのたたき上げの大阪商人だ。昔の船場商人と違い、義理より損得で判断する。そんなところのある社長だ。よくいえば理念より実質だという大阪商人の合理主義、といった。 30分ばかり会話して、社長は管理本部の常務を呼び「この人5月1日から来てもらう。いいだろう」といって席を立った。常務は、困った顔をして別室でコンサルタントと話し込んでいた。帰りに、コンサルタントは今のこの会社の給与制度にあてはめようがない、といっていた。でも、「ワンマン社長がいったことだ間違いないでしょう」といった。 そして私は、京都三菱での一切の退社手続きをして、5月1日を待った。持ち帰ったものは3種。1つは、14年間に書き溜めた、7mm方眼のノート20冊、それと「事務機械化委員会」で作成した「現業が作ったマニュアル」10冊、それと「ビジネスマンの必須となる法律知識を研修で修得したノート」それだけだった。ノート以外に学んだものは多かった。特に、三菱重工という組織機能維持のためにやられていたさまざまな「社標準」。 そしてY社の社長と約束した5月1日の8時30分にY社に入り、管理本部の常務にその旨を伝えた。 常務は「毎月一日には、本社全員が集う朝礼があります。その場で社長が、あなたさまの紹介をすることになっています」といって、しばらく待つようにいった。あなたさまといった常務の言葉使いによからぬ予感を感じ、待った。1階下のフロアで、ラジオ体操の音楽が鳴り、やんだところで私は呼ばれ、社長の横に立った。 その2階のフロアは、商品本部(商品開発・デザイン室)(商品群別自社ブランド商品の原糸調達(商社経由)と生産者への計画的生産発注)(各支店からの受給要望と、販売予想・在庫状況をにらんでの生産調整)(問屋機能としての取り次ぎ販売戦略と個別メーカーとの取引ルール、販売数量協定。その提携相手の多くは東証一部上場の内装資材製造業。この世界でのY社の業界内地位は、代理店で販売マージンが利益、他に協定販売量達成によるリベート)。営業本部(各支店の組織統制ーー今でいう企業内ガバナンス、そのなかには、各販売ルートの日々の実績把握と目標管理もあった)(専門店卸ルート───生業のカーテン、カーペット、インテリア小物の小規模前売店、寝具店、床璧装の一般住宅、業務用インテリア工事店)そのほかに(GMSルート)(百貨店ルート)(後に主となるホームセンタールート)(後に話題となるブレバブ住宅メーカーのトータルインテリアとしての壁装、床材、敷物、家具、カーテン、照明器具、インテリア小物、の一貫としての供給ルート)(一般住宅の増改築ルート)への営業戦略・中期計画、および施策・目標の設定など。さらに問屋からの脱却として各販売チャネルの組織化や物流のハード機能の充実と商流としてのソフト情報伝達機能の必要性がささやかれていた時代であった。 上記組織の他に、常務会で方向付けした中期経営計画を、商品計画と営業活動分野でブリッジする部門として営業企画部があった。後のマーケティング部である。 この段落は、Y社社長と面接前にT社のコンサルタントから聞かされた話だったし、また私がY社入社以後に認知したものも含まれている。 読者の皆さんがおおよそY社のことを知ってもらった段階で、社長からの私の紹介に話を戻します。 「今日から3ケ月「T経営」から派遣される◯◯さん(私のこと)を紹介します。3ケ月の間「営業」「商品」まわりの実務を見てもらい、わが社のよいところ、改善すべきところを「報告書」にして常務会に提出してもらうことにした。みんな協力するように」との紹介であった。 私は、やられた、と思った。それは給与制度にない私の要求に対しての、Tコンサルタントとの落としどころだったのかも知れない。 その日から社長の弟の営業統括専務の預かり人事となり、私は動いた。福岡、広島、名古屋、東京の各支店をまわり、本社からの「営業」「商品」「販促催事」「各支店の年度計画」などどような系統で指示が出され、年度が終わったおりどんな検証がそれているか、それが知りたかった。また管理本部からの指示命令系統と実施はどうなっているかも、知りたかった。活動の詳細は割愛するとして、3ケ月後の「報告書」みな好評で、社長が一番評価してくれた。 3ケ月が過ぎても社長からも管理本部の常務からも何の音沙汰もなく、そのままの勤務がつづいた。 そして一年が過ぎ、名目はともかく、私が要求した以前の年収の1.5倍はくれていた。 翌年の春の辞令から、ボストと役職もあたえられ、セールスプロモーション、広告宣伝、自社ブランド商品発表展示会の実施、見本帳の製作、業界記者へのプレスリリース、専門店ルートの全国販売キヤャンペンに連動したテレビ広告と大がかりな新聞織り込みチラシ企画と実施など5・6年やった。その頃は部署名も流行りのマーケティング部という名称になったが、実質は、セールスプロモーションにほんの毛の生えた程度の業務だった。 まだ社長も若く、事業拡大意欲旺盛で、多くのコンサルタントとつきあっていた。Tコンサルタントファームは、創業間もない頃からのつきあいだったが、年商100億円を超えてからは、専門特化のコンサルタントファームを積極的に採用するようになっていて、それは成長のための投資と考えているようだった。 中期経営計画策定のコンサルティングも、プロジェクトを組んで指導を受けたが、財務計画、物流計画も含んだ広義の「マーケティング戦略計画」というものだった。 そんな関係で、商品開発計画から、物流戦略までさまざまなプロジェクトに私は参加した。そこで出会ったコンサルタントや、プランナーたちは、延べ15人を超えていた。以後の転職にどれほど役に立ったことか。 その頃、通産省生活産業局において「インテリア振興対策委員会」なるものが編成された。 主旨は、通産省の担当領域である工場生産によるプレハブ住宅と、同じく通産省担当領域のインテリアエレメント(家具、照明器具、壁装材、カーペート・塩ビ等の床材、カーテン、インテリア小物等)のトータルな組み合わせにより、住宅躯体は、工場生産でより安く、内装=インテリアエレメントは、トータル化とファッション化で快適な住空間を促進し国民に提供する。そして、インテリア産業の振興を図る。というものだった。 (注)在来工法の住宅は、建設省の担当領域。一級二級建築士も、建設省系の許認可国家資格。 通産省は、その施策を遂行するためにとったさまざまな手立てををつぶさに見た私は、官僚の制度や、若いキャリア官僚の凄さ、関東の企業が、各省の動向・官僚の動きに関西では見なかった敏感な反応に驚いた。そして通産省生活産業局は、外郭団体の「流通経済研究所」(だったと記憶)のスタッフを使って、関西においても、インテリア・エレメント・メーカーや、企画問屋の実態把握をやっていた。そのスタッフがY社の社長を訪ねてきたとき、社長の要請で私も同席した。後でわかったことだが、若いキャリア官僚(厚生省から出向の29歳の係長事務官)は、直接業界の経営者やスタッフに会うことなく、外郭団体のスタッフが収集したヒアリング情報の聞き取りと、報告書による、詳細な実態把握をしていた。どこの会社をリーデイグカンパニーとして選ぶか=振興対策委員に選ぶか決めていたと思われる。 しばらくして、Y社長宛に、生活産業産業局長からの「インテリア振興対策委員」への参加の依頼状がきたと、社長から聞いた。社長が委員に指名されたことは、インテリア振興行政の蚊帳の外でないことだけは確かで、社長は喜んでいた。委員会ではいろいろ宿題もでようから、委員会に付き添い出席してくれと社長は私にたのんだ。私も物珍しさもあり、随行させてもらうことにした。 (次号につづく) 鬱陶しい詳細な話がまたつづきます。この種の話が嫌いな読者も多いと思います。そんな方は斜め読みで読み飛ばすか、またはバスしてください。
by kuritaro5431
| 2013-09-18 16:07
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