2012年 07月 29日
加藤登紀子は、「東北の人たちへ」「同胞の日本人へ」「そして世界の人たちへ」3.11で受けた東日本大震災の大津波という自然の脅威と、不条理な人災としての放射能被害を乗り越えて生きようとしている人間の悲しみと、再生への祈りをCDに込めて発信した。 彼女のパーソナリティを生かし、彼女ならではの世界観で清濁を包み込み、こよなき健全性を今回も発揮した。この時期において私は彼女のそのバランス感覚に共鳴し、敬意をもってここに「彼女の語りと歌」を載せたい。 ふくしま・うた語り 加藤登紀子 鎌田實 ピアノ:フェビアン・レザ・バネ 1、貝殻の歌 詞 和合亮一 曲 伊藤康英 歌 加藤登紀子 あなたに 貝殻を 手のひらに 渡したい そして そっと 悲しみを 私に 渡してほしい 終わらない この星の この星の 悲しみを 想っています 悲しみを あなたのことを 想っています 命よ この星よりも重たい命 命のはかなさを知って 泣いているあなた 私も 共に泣きましょう 共に あなた あなた 大切なあなた 貝殻にも 光にも 雲にも 牛にも 駅にも 街にも 船にも 私にも この地球よりも 重い命が 重い命がある 命よ この星よりも 重たい命 命のはかなさを知って 泣いているあなた 私も 共に泣きましょう 共に あなた あなた 大切なあなた あなたに 貝殻を そっと 手のひらに 渡したい そして そっと 悲しみを 私に 渡してほしい そっと 渡してほしい 2、神隠しされた街 詞 若松丈太郎 曲・歌・語り: 加藤登紀子 四万五千人の人びとが たった二時間の間に消えた サッカーゲームが終わって 競技場から立ち去ったのではない 人びとの暮らしがひとつの都市(まち)から そっくり一度に消えたのだ 「三日分の食料を準備してください」と、ラジオで避難警報があって 多くの人は三日たてば この街に帰れると思っていた 小さな手提げを持って 仔猫だけ抱いて 老婆も病人も バスに乗った チェルノブイリ事故発生四0時間後のことだった 千百台のバスに乗って四万五千人が消えた 鬼ごっこする子どもの歓喜(こえ)が、垣根ごしのあいさつが 郵便配達のベルの音が、ボルシチを煮るにおいが 家々の窓のあかりが 人びとの暮らしが ひとつの都市ブリピャチが 地図のうえから消えた それから十日が過ぎて チェリノブイリ原子力発電所から 半径三0キロゾーンは 危険地帯とされた 五月六日から三日間のあいだに九万二千人、あわせて十五万人の人びとが 100キロ、150キロ先の村にちりぢりに消えた 東京電力福島原子力発電所から半径三0キロゾーンといえは 双葉町 大熊町 富岡町 楢葉町 浪江町 広野町 川内村 都路村 葛尾村 小高町 いわき市北部 そして私の住む原町 私たちが消えるべき先はどこか 私たちはどこへ姿を消せばいいのか 日がもう暮れる 鬼の私はとほうに暮れる みんな神隠しにあってしまった うしろで子どもの声がした気がする ふりむいてもそこには誰もいない 神隠しの町はこの地上に もっともっとふえていくだろう 私たちの神隠しは 今日すでにはじまっている うしろで子どもの声がした気がする ふりむいてもそこには誰もいない 広場にひとり立ちつくす 3、スマイル・レボリューション 詞・曲・語り 加藤登紀子 ギリシャの映画作家テオ・アングロプロスの映画に「こうのとり、たちずさんんで」とい う作品があった。 アルメニアとギリシャの国境に川があり、そこに橋がかかっている。アルメニアからギリ シャへ来てしまった難民たちはその橋に立ちずさみ、故郷に帰ることを夢見る。 何度も足を上げてみるが、一歩を踏み出せば、どこからか鉄砲の玉が飛んでくることを 知っている。 愛しい故郷はすぐそこにあるのに、恋しい人たちがすぐそこにいるのに、橋を渡ることが できない。だからいつまでも片足でたちすくんだままでいる、という痛切な物語だった。 2011年3月11日。 東日本における地震、津波、そして原発事故という大惨事を突き付けられた。 それからの日々、次々と見えて来たのは原発への恐怖と放射能汚染の中で生きる困難さ。 何とかこの危険な原発を止めて日本を創り変えなければいけないことが、はっきりと わかって来た。けれども、まるでこのコウノトリのようになかなか一歩が進まない。 橋のこちら側は、地震地帯の上に54基もの原発を抱え、いわば21世紀人類の繁栄と 危機を暗示するジュラシックパークだ。 橋のむこうは、数十年前までの穏やかなまだ土の匂いのする日本。 電気製品はもう十分あったが、原発はなかった。 豊かな地層の中には、長い年月の間、自然と調和を目指した営みの跡がまだ残っている。 今、こちら側の橋のたもとで、片足を上げたまま立ちずさんでいる私たち。 橋を渡ることへの不安は一体どこから来るのだろう。 確かに社会の仕組みの中から外れるという事には大きな勇気もいるし、社会を転換させる には大きなエネルギーがいる。 けれど、片足を下ろし一歩踏み出しても、ここには鉄砲の玉は飛んでくるわけじゃない。 だから、一度この橋をわたってみたらどうだろう。 私たちは何を夢みていたのだったか。どこに問題があったのか、この数十年の間になにを 得て、何を失ったのか。もう一度来た道をたどってみよう。そして未来へのまっとうな シナリオを捜してみよう。 生きることがどこかで破壊や破滅につながるのではなく、生きることが限りない喜びに つながる生き方を見つけたい。生きることに素直に向き合い、生きる喜びに真剣に 取り組み、ほほえみを持って輝いて生きることで世界を変えていきたい。 それが「スマイルレポリュウション」だ。 どんなに時代が変わっても、残されていくひとつの謎がある。人はどうしてこんなにも たくさんのものを求め、傷つけてしまうのだろうか。 (白水社版「スマイルレポリュウション」より) 4、海よ、大地よ 語りの詩、 語り:鎌田實 歌の詩・曲・歌:加藤登紀子 ──語り── 3.11、大津波は原発に襲いかかった。 「おまえに海の苦しみがわかるか」 自分自身に問いかけた。 海が放射能で汚染された。許せないな。 不条理だなと思う。海に責任はないのに。 「おまえにホウレンソウの悲しみがわかるか」自分自身に言ってみた。 1キロあたり1万5020ベクレルのヨウ素が検出されたホウレンソウの悲しみが わかるか。 安心して食べてもらいたいと思ったのに、人々の心を不安にした。 ホウレンソウは悲しいだろうな。 「おまえにミルクの悔しさがわかるか」 牛に問いかけてみた。何も答えない。 ただ、ただ、牛はさびしそうな目をしていた。 25年前、チェルノブイリでは 大地が汚れ、草は汚れ、そのくさを食べた牛が汚れ、ミルクが汚れた。 汚れたミルクを飲んだ8600人の子どもが甲状腺がんになった。 ミルクは悔しいだろうな。 みんな命はつながっているのだ。 38億年前、海から生命がはじまった。 その海をぼくたちは汚した。 みんな命はつながっているのに。 大地を汚したのはだれだ。 うみを汚したのはだれだ。 「1968」年世界の若者が同じ呼吸をした奇跡の年。 日本を変えようとした一人の若者が怒っていた。 「人間は、地球のすべての生きものたちに、土下座して謝るべきだ」 この男は2011年の出来事をマチガイナクこのとき、予感していた。 カマタミノルもカトウトキコも、この男フジモトトシオも、 海も、大地も空気も、みんな怒っている。 美しい昔、美しい街、美しい森、汚してしまったけど、ぼくらはあきらめない。 今こそ、までえのふるさと、までえの命を取り戻すとき。 「命結」の力を信じている。 ───歌──── どれほどの長い道を歩いて来たのだろう。 あなたは何も言わず ほほえんでいるだけ 数知れぬ苦しみと 悲しみの足跡 見つめたその胸に 涙をしずめて 人の世の荒野を 吹きわたる風よ 運命の流れよ はてしない空よ 風よ光よ 海よ大地よ どこまでも広がって 愛に届くまで どこまでも広がって 愛に届くまで *********このCDの収益金は「福島の子どもたちのために使われる」とあります。
by kuritaro5431
| 2012-07-29 09:16
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